くろべえと山の伝説

5分で読める童話

むかしむかし、やまあいのちいさなむらに、「くろべえ」とばれる一匹いっぴきおおきな黒猫くろねこがおったそうな。

くろべえは、百年ひゃくねんも生きた古猫こねこで、むらのはずれをあるきながら、ほしはな不思議ふしぎちからっていたんじゃ。

むら子供こどもたちはくろべえが大好きで、昼寝ひるねをするくろべえにのぼって、かくれんぼやおにごっこをしてあそんでいたそうな。

くろべえの背中せなかうえ昼寝ひるねをすると、あったかで気持きもちがいいんじゃと。

そのむらには「おおかみやま」という、どっしりとしたおおきなやまがそびえておってな。

やまのむこうには、ゆたかなかわはたけひろがっておるのじゃが、むらものたちは、やまがあまりにたかくてえることもできず、やせた土地とち細々ほそぼそらしていた。

あるとしのこと。そらはカラカラにかわき、あめ一滴いってきらん。はたけはひびれ、作物さくもつれてしまった。

やまさえうごいてくれたら……こうのみずがこっちにながれてくるのになあ……」

と、ある年寄としよりがつぶやいた、そのよるのことじゃ。

くろべえは星空ほしぞら見上みあげて、ゆっくりとがると、むらのはずれからやまをじっとにらんだ。

しんとしずまるよるの中、くろべえの黄金おうごんが、星明ほしあかりにぎらりとひかった。

そのとき――

「ニャアァアーーーッ!!」

天地てんちるがすようなごえが、そらをつんざいた。

すると、くろべえはおともなく巨大きょだいからだをすくめ、やまへとした。やみなかはしるその姿すがたは、まるでかげきているようじゃった。

やまのふもとにたどりくと、くろべえはそのおおきな前足まえあしで、やまをかけた。

「ううぅぅぅ……ニャァアアアアッ!!」

黒猫くろねこがぐんとび、ひとふり、ふたふり――そして三度目さんどめに、ゴゴゴゴ……と、大地だいちがうなりはじめた。

ほしながれ、くもき、ついにやまが……ぐらりと、ほんのすこよこにずれたのじゃ!

やがて夜が終わり、朝日あさひしたそのとき――おおかみやますこよこにずれ、おおきなたにができた。そこからきよらかなみずながみ、むらかわができたんじゃ!

「くろべえが……やまうごかした……!」

村人むらびとたちはわせて感謝かんしゃした。

それからも、くろべえはむらつづけ、かわのほとりで昼寝ひるねをしておったそうな。

やがて姿すがたかけなくなったあるばんそらくろくもあらわれ、そこから金色きんいろひかねこがきらりとかがやいた。

――今でもおおかみやまのふもとのむらでは、黒猫くろねこ大切たいせつにし、むらすくったくろべえの神社じんじゃつくり、毎年まいとし「くろべえまつり」をひらいているんじゃと。

おしまい

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