ブラッキーとポウのパン作り大作戦

5分で読める童話

ブラッキーとポウ、パンを食べる

黒猫のブラッキーは、町外れの港で暮らす“食いしんぼう”の猫。
今日も、かもめのポウと一緒に海辺を散歩していました。

「ねぇポウ、なんだかいい匂いがしない?」
ブラッキーが鼻をひくひくさせると、風に乗ってふわっとあたたかい香りが流れてきました。

「パンの匂いだよ。あそこのパン屋さんのだね」
ポウが翼で港のパン屋を指します。「俺はたまに食べるよ。人間がパンを投げるから。」

ブラッキーは、パンを食べたことがありません。
けれどその匂いに、胸がドキドキしてきました。

ブラッキーとポウがパン屋さんの前に置かれた焼きたてのパンを見つめていると、女の人が近寄ってきました。

「あら、あなたたちパンを食べたいのね。売れ残りがあるから分けてあげる。」

おお!なんて(ブ)ラッキー!!

——もぐもぐ。
「な、なにこれ!おいしい!幸せな気分だ!」
ブラッキーの目は、きらきらと輝きました。

「もっともっと食べたいよ!」
そう言うブラッキーに、ポウが小さくため息をつきます。
「じゃあ、自分で作ればいいんじゃない?」
「えっ、パンって作れるの?」

ポウは得意げに胸を張りました。
「小麦粉と水と……まあ、いろいろあれば作れるよ!」

その言葉に、ブラッキーの耳がぴん!
「よし! 材料を手に入れよう!」

ブラッキーとポウ、逃げる

ふたりはパン屋の裏の窓からに忍び込む事にしました。

小麦粉、砂糖、イースト。
ふたりはこっそり袋をくわえ、そーーっと外へ……
その瞬間!

「こらーー!!」
店主のおじさんに見つかってしまいました!

「材料を持って逃げろポウ!!」
「言われなくても!」

港の道を必死に走る黒猫と白いかもめ。
しかし、おじさんは思ったよりも速い!

「ブラッキー、袋から粉がこぼれてるよ!」
ポウが叫んだ瞬間——

ぽふんっ!

小麦粉の袋が破裂し、真っ白い粉がブラッキーにどさっとかかりました。

「うわっ、まっしろ!」
気づけばブラッキーは、どこから見ても白猫。

追ってきたおじさんは、
「白い猫……?」
と首をかしげ、そのままどこかへ戻ってしまいました。

「やった……まけたよ!」
ポウがくるくる回って喜びます。

ブラッキーは自分の真っ白な毛を見て、ちょっと笑いました。
「でも、これで堂々と帰れるね!」
ブラッキーはにんまり笑って言いました。

「ブラッキー、白猫になった記念に、パン作りに挑戦しよう!」ポウがそう言って翼をぱたぱたさせました。

ブラッキーとポウ、はじめてのパン作り

 ふたりは材料の入った袋を抱えながら、港の裏通りを歩いていました。

「ブラッキー、どこでパン作りする?」
ポウが首をかしげます。

その時、ブラッキーが古い木の扉を指さしました。
「ここはどう? だれも住んでないみたい」

古びた空き家は、窓が少し割れていて、壁にツタがからまっています。
けれど中に入ってみると、小さなテーブルと、少しほこりをかぶった調理道具が並んでいました。

「ここならできるね!」
ポウが翼をぱたぱた。

ブラッキーはわくわくしながら、ボウルに小麦粉を入れました。
「ポウ、作り方は?」
「えっとね……とりあえず混ぜるんだよ!」

ポウは実は詳しい作り方をよく知りません。
そこで、港のパン屋の窓から、こっそり職人のおじさんの手元を観察することにしました。

「よし、行ってくる!」
ポウは大きな羽でふわりと飛び立ち、パン屋の裏窓へ。
そこでおじさんが生地をこねる手つきをじーっと見つめました。

ポウが戻ると、胸を張って説明します。
「ブラッキー、こねて、たたんで、またこねるんだって!」
「任せて!」
ブラッキーは一生懸命こねました。

……しかし。

でも、
ぶわんっ!
粉が舞い上がってブラッキーがまた真っ白に!

「ちがったみたい……!」
ポウは慌てて再びパン屋へ偵察に飛び立ちました。

今度は、おじさんが生地に水を少しずつ足しているところを見てきました。

「水を入れるんだ!ちょっとずつなんだって!」
「なるほど!」
ブラッキーは言われた通り少しずつ水を足してこねます。

「うーん、まだ違う……」

三度目の偵察に行ったポウは、おじさんが生地を休ませているところを発見。

「生地を寝かせるんだよ! これが大事なんだって!」
「寝かせる?」
「静かに休ませるってことだよ」

ブラッキーとポウは、生地をそっとボウルに入れて、タオルをかけて待ちました。

しばらくすると、生地はぷくっとふくらみ、ふたりの顔をほころばせました。

「できた……気がする!」
ブラッキーはやさしく生地を丸め、古いオーブンに入れました。

ぎぃ……と扉を閉めて、ドキドキしながら待つふたり。

そして——
ふわぁっと、あたたかいパンの香りが空き家に広がりました。

「焼けてる! すごいよブラッキー!」
ポウが嬉しそうに跳びはねます。

取り出したパンは、形はちょっといびつ。
でも、ほんのりきつね色で、とても美味しそう。

ブラッキーはひとくち食べて、目を丸くしました。
「ぼくがつくったパン……おいしい!」
ポウも小さくちぎって味わいました。
「うん、ばっちり!」

こうして、ふたりの初めてのパン作りは大成功。
空き家から漂うパンの香りに、海風もなんだか嬉しそうに吹いていました。

おしまい

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